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079:【一般向け】Youtubeの動画テロップが著作権侵害と判断された事件を新聞記事から深掘りする

2021年11月24日付の日本経済新聞にて、動画投稿サイトYoutubeで動画の内容を紹介するテロップについて、その文章をブログサイトに無断で転載した行為が著作権侵害に該当するとの判断が、大阪地裁でなされたとの報道がありました。

本日は、この事例をもとに、著作権法などの関係を解説したいと思います。

目次


  • 事件はプロバイダ責任制限法に基づく情報開示請求事件
  • 情報開示請求はインターネットプロバイダに対して行う
  • 訴訟では権利行使の根拠となるものが「著作物か」が問題になる
  • 著作物の例示はあるが、あくまでも例示は例示
  • 短い表現である場合、著作物性は通常否定される
  • 著作権を侵害すると差止請求や損害賠償請求を受けることもある

事件はプロバイダ責任制限法に基づく情報開示請求事件


この記事によれば、大阪地裁は、当該ブログ記事の投稿者の情報開示を認めるとの判断をしたとのことです。

このことからわかるのは、この事件は、単純な著作権侵害についての訴訟事件ではないことがわかります。

まず、著作権に限らずですが、訴訟を提起するには訴訟の相手方が、一体どこの誰かを特定する必要があります。

訴訟を進めていくには、まず訴状を裁判所に提出するのですが、その提出した訴状の副本を訴訟の相手方に届けるためには、被告となる者がどこの誰かが特定できている必要があるためです。

しかし、インターネットの世界では、記事を投稿している人物がどこの誰かということを特定することは必ずしも容易ではなく、個人的な調査のレベルでは特定できないことが少なくありません。

このため、自分の権利を侵害されたと考えて訴訟提起をしようにも、相手方が特定することが容易ではなく、一つステップを多く踏む必要があります。

それが、プロバイダ責任制限法に基づく情報開示請求です。

情報開示請求はインターネットプロバイダに対して行う


インターネットプロバイダは、ブログにしろホームページにしろ、情報発信を行なった者の情報を把握していることから、自らの権利を侵害されたと考えるものは、プロバイダに情報開示を求めることになります。

もっとも、プロバイダとしても、こうした情報は個人情報であることから、プロバイダに情報開示の要請をしたとしても、むやみに開示するということはありません。

プロバイダに情報開示の要請をしますと、社内での検討が行われ、情報開示ができるかどうかの判断がなされることになります。

もしそこで、プロバイダが情報開示に応じる判断をした場合、訴訟提起は不要になるのですが、情報開示をしないとの判断をした場合には、訴訟を通じて情報開示を求めていくことになります。

訴訟では権利行使の根拠となるものが「著作物か」が問題になる


この事件では、動物の画像とテロップを朗読した音声で構成された動画に関し、そのテロップと完全に一致する表現が多数含まれるブログ記事が著作権を侵害するかどうかが争われました。

著作権を侵害するかどうかを判断するにあたって非常に大切なのは、まず著作権があるかどうかという点です。

著作権は、登録手続きを経ることなく発生する権利ですので、誰かが著作権を主張していても、本当に著作権が発生しているかは不透明な状態であると言えます。

つまり、訴訟に発展しますと、侵害されたと訴える作品が、本当に著作物かという点が、大きな争点となります。

記事を読む限り、この事件でもテロップが著作物かが争われたように思われますが、最終的には、言語の著作物だという判断がされた模様です。

著作物の例示はあるが、あくまでも例示は例示


著作権法上、著作物の定義として、次の条文が定められています。

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著作権法第2条第1号

一方、著作権法には、著作物の例というものが定められています。

第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

著作権法第10条第1項

第10条は、あくまでも「例示」ですので、このいずれかに該当しなければならないというものではありません。

第2条第1項第1号にある定義に該当するものであれば、どれも著作物となりえます。

短い表現である場合、著作物性は通常否定される


この事件では、原告側の表現の仕方に若干の相違があるものの、実質的に同一の内容を表現したものとして、言語の著作物の保護を認める判断を下しました。

伝統的には、ごく短い文書や標語、題号、見出しといったものは、表現の幅が狭く、ありふれたものにならざるを得ないことが多いとされてきました。

実際、「ボク安心、ママの膝より、チャイルドシート」という5・7・5の形式で作られた川柳について著作物であると認めたのが限界事例であると理解されており、この程度の長さの文章であれば、あまり著作権侵害という心配をされなくても良いかもしれません。

しかし、動画のテロップということは、相応のボリュームであったことが予想され、かつ思想や感情を創作的に表現しているとして、著作権侵害と判断されたものと考えられます。

新聞の記事には、「実質的にほぼ同一の内容を表現したものでテロップに係る著作権が侵害されたことは明らかだ」と裁判所が判断した旨が記載されていますので、このことから、著作権うち「複製権」を侵害するものと判断されたものと考えられます。

被疑侵害者としては、他人が発信している朗読が「著作物である」という意識がどこかにあれば防げた事件ではないでしょうか。

著作権を侵害すると差止請求や損害賠償請求を受けることもある


他人の著作権を侵害しても、権利者から叱られる程度であればまだマシかもしれませんが、実際には、差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。

インターネットは便利なものですが、どこかに転がっている表現をそっくりそのまま用いてしますと、著作権法上のトラブルが起こってしますので、私的使用目的を超えて動画編集などをされる際には、十分注意が必要です。

こうしたトラブルに巻き込まれないよう、著作権に関する知識は身につけておきたいですね。


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