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010:【一般向け】著作権が消滅したものが復活?著作権の存続期間と戦時加算などの特例について

「知的財産は難しい」とよく言われます。このblogは、知的財産に関する疑問・悩みに答えていく「解説」記事です。「知的財産が分かった」を目指して、すっと理「解」していただけるように噛み砕いて「説」明していきます。

さて、今日のお題は「著作権が消滅したものが復活?著作権の存続期間について」です。

2021年9月9日に一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は、米国の作曲家であるジョージ・ガーシュイン(George Gershwin)の作品のうち337曲について、2022年1月1日から著作権の管理を再開するとの発表をし、報道を賑わせました。

本来、一度消滅した著作権は復活することはなく、著作権が切れたものはパブリックドメインとして誰もが自由に利用することができるものです。

JASRACの管理が再開するということはどういうことでしょうか。著作権の存続期間の制度について、解説します。

目次


  • 著作権の存続期間は原則として著作者の死後・・・
  • 戦争中は著作権の保護がなかった?戦時加算とは
  • 著作権切れの作品はパブリックドメイン(PD)に
  • 共同著作物の場合の特例
  • 結論|ガーシュインの作品337曲の著作権は2053年まで(か?)

著作権の存続期間は原則として著作者の死後・・・


著作権は、著作物(つまりは作品です)を創作した時点で発生します。絵であれば描いた時に発生します。役所に届け出る必要もありませんし、プロである必要もありません。

このため、子供が書いた落書きであっても著作権が発生しますし、鼻歌でも著作権が発生することもあるでしょう。

繰り返しますが、著作権は、創作した時点で発生します。

創作した時点で発生する著作権ですが、一体いつまで残り続けるのでしょうか。

著作権の存続期間は、著作物の種類や誰が著作者であるかによって細かく規定が分かれており、若干複雑ですが、本記事では、一番ポピュラー(だと思う)個人の作曲した作品についての著作権の存続期間について書いていきたいと思います。

個人が創作した作品については、2018年に著作権法が改正されるまでは、原則として著作者(作曲家)の死後50年とされてきました。2018年12月30日に施行した改正著作権法(TPP11協定の発効に伴うもの)では、著作者の死後70年となっています。  

別の知的財産権である特許権であれば、最長でも出願日から20年(延長を考慮しない場合)ですし、商標権であれば登録日から10年(ただし商標権は更新可能)ですので、著作権の存続期間は非常に長いのだということをご理解いただけたかと思います。

冒頭に触れたジョージ・ガーシュインは、1937年にこの世を去っていますので、著作権の存続期間は死後50年となります。

単純計算で、翌1938年1月1日から50年を経過した1987年12月31日をもってパブリックドメインになっていた、、のでしょうか。

戦争中は著作権の保護がなかった?戦時加算とは


実はこの著作権の存続期間には例外があります。「連合国および連合国民の著作権の特例に関する法律」という別の法律で、第二次世界大戦中には著作物の保護がなされていなかったとして、保護期間の加算がされることになっています。

これを「戦時加算」といい、具体的には、ガーシュインの作品については、3794日の保護期間の加算がされています。

このため、前述の1987年12月31日でガーシュインの著作権が切れた、のではなく、この戦時加算によって10年強の延長がされていることになります。

JASRACでは、この戦時加算の期間が経過した1998年5月22日以降は、ガーシュインの楽曲についてパブリックドメイン(PD)として取り扱ってきました。

著作権切れの作品はパブリックドメイン(PD)に


このように、著作権の存続期間が満了したものは、著作権切れとして、誰でも自由に利用できるものとなります。ガーシュインの楽曲としては、「サマータイム(SUMMERTIME)」や、「誰かが私を見つめている(SOMEONE TO WATCH OVER ME)」など有名な曲も多く、一度は聞いたことのある方も少なくないかと思います。

かれこれ20年以上パブリックドメインとして広く利用されてきたガーシュインの楽曲ですが、ここへ来てのJASRACの発表です。

著作権がなければ管理のしようもありません。管理が再開されるということは、著作権があるということです。

2022年1月1日から著作権の管理が再開されることになったということはどういうことでしょうか。

共同著作物の場合の特例


結論から言えば、「著作権の復活」ではなく、「著作権が切れていなかった」ということになります。

著作権は、原則として著作者の死後50年(当時)とされてきました。しかし、その作品が複数の人によって創作された共同著作物である場合には、その原則が修正されることになり、年数のカウントが全ての著作者の死後ということになります。

そして今回、ガーシュインの作品のうち337曲については、その兄であるアイラ・ガーシュイン(Ira Gershwin)との共同著作物であったということが明らかになりました。

このため、全ての著作者がこの世を去った時点(つまりアイラ・ガーシュインがこの世を去った1983年)を基準に計算を行うことになります。

1983年時点では、死後50年という存続期間でしたが、1983年から35年後の2018年末には、前述のように著作権の存続期間が著作者の死後70年とする改正著作権法が施行されました。

こうして、ジョージ・ガーシュインの楽曲のうち、兄アイラ・ガーシュインとの共同著作物であった337曲については、1983年を基準に、現行法に基づいて存続期間を計算することになります。

結論|ガーシュインの作品337曲の著作権は2053年まで(か?)


以上のとおり、著作権については、誰が著作者か、単独著作か共同著作か、戦時加算が適用されるか、いつの法律を適用するか、というように、ただ存続期間を考えるだけでもかなり細かな情報の整理が必要です。

兄アイラ・ガーシュインが1983年にこの世を去ったということから、他に共同して創作した者がいなければ、一応、2053年12月31日で著作権が切れるということになります。

ここで「一応」と述べたのは、前記の戦時加算が適用されなければという条件付きだからです。

前述のように、戦時加算は、別の法律で設けられた特例です。そしてこれは、存続期間に追加されるものであるため、2053年末に、この制度が存続していれば、さらにその期間が追加されることになります。

2022年以降は、ガーシュイン兄弟の楽曲337曲(「サマータイム(SUMMERTIME)」など5つの楽曲については歌詞についても)の管理が再開することになります。

2021 年 12 月 31 日までの利用については、使用料の支払いは不要ですが、2022 年 1 月以降、管理が再開される著作物を利用される場合は、使用料の支払いが必要となりますので、注意が必要です。

ご興味のある方は、以下のプレスリリースに詳細が記載されていますので、ご参照ください。

JASRAC|ジョージ・ガーシュイン(George Gershwin)が作曲した一部著作物の著作権の管理再開について


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