2021年9月17日に、株式会社ズームが、NECネッツエスアイ株式会社に対して、東京地方裁判所に訴訟提起をしたとの報道発表がありました。
「zoom」と言いますと、この数年で一躍脚光を集めたビデオ会議システムを想起される方もいらっしゃるかと思いますが、その「zoom」に関するものです。
報道発表資料はこちら|訴訟提起に関するお知らせ
両当事者とは全く関係のない中立的な立場から、どういうことが起きているのか、勝手に考察をしてみたいと思います。
目次
- 「zoom」の普及の背後で何が起きていたか
- 日本ズーム社の商標は「ズーム」と読める?読めない?
- 裁判所がどう判断するかに注目
- 別件の争いも|不使用取消審判
「zoom」の普及の背後で何が起きていたか
日本では、特許庁で登録を受けることによって商標権が発生する制度になっていて、他人の登録商標やこれと似た商標を無断で使用すると侵害となり、違法となります。
今回の訴訟は、株式会社ズーム(以下「日本ズーム社」と言います)が、自己の名義で保有する商標権に基づいて、米国法人であるZoom Video Communications, Inc(以下「米国Zoom社」と言います)の日本国内の販売代理店を訴えたものです。
報道発表を見ると、日本ズーム社は、図案化された「」商標を保有していて、昨年から米国Zoom社の日本法人と連絡を取っていたとあることから、ビデオ会議システム「zoom」の普及の背後では、水面下で紛争が起きていたということになります。
商標権は、完全に同じものだけではなく、似ているもの(類似するもの)までが権利範囲として認められます。
つまり、商標権を持っていれば、似ている商標を勝手に使うなと言って、無断使用を排除することができます。
ある商標が他の商標と似ているかどうかは、商標の見た目・読み・意味合い(外観・称呼・観念)などによる印象・記憶・連想などをもとに総合的・全体的に判断されることになっています。
見た目・読み・意味合い(外観・称呼・観念)のうちでは、特に読みが重視される傾向にありますので、読みが同じである場合、商標としては類似とされることが多いと言えるでしょう。
商標権者から警告書なり通知書を受け取った場合に、切り返せない(つまり商標が似ている)と判断する場合には、通常は商標の変更をするなどの対応を速やかに行うことで、紛争の長期化や訴訟への発展を防ぐ方向に舵を切ります。
しかし今回の事例では、報道発表を読む限り、日本ズーム社は商標登録第4940899号に基づく権利行使をしていることが予想される一方、米国Zoom社の日本法人から誠意ある回答や対応が得られなかったということですから、米国Zoom社側としては、何か切り返せる(つまり商標が似ていないと反論できる)と考えているのではないかと予想されます。
そこで、特許庁の公開データベースを見てみますと、なるほど米国Zoom社の商標登録出願は、日本ズーム社などが保有する複数の商標登録・商標登録出願の存在を理由に登録を拒絶されているようです。
しかし、米国Zoom社は、意見書で反論をするなどの対応をしており、本記事執筆時点では、最終処分は下されていないようです。
日本ズーム社の商標は「ズーム」と読める?読めない?
特許庁に提出された意見書の内容を見てみると、色々と書かれていますが、注目すべき記述がありました。
日本ズーム社の保有する商標「」は、抽象的に図案化がされていて、アルファベット文字である「ZOOM」が抽出されず、結果的に「ズーム」とは読めないということが主張がされていることです(特許庁の公開データベースには称呼として「ズーム」と書かれていますが、あくまでも参考情報に過ぎず、これに縛られるものではありません)。
以下の表は、米国Zoom社が出願した商標と、その出願の審査で拒絶の根拠とされた引用商標(登録のみ)です。
米国Zoom社の商標 | 引用商標1 | 引用商標2 (日本ズーム社の商標) | 引用商標3 |
また興味深いのが、米国Zoom社の出願に対する拒絶の根拠とされている他人の商標権は、日本ズーム社以外に2つ含まれていて、どちらも明らかに「ズーム」と読めるように思われますが、どちらも日本ズーム社の商標と似ているとは判断されていないということです(どれも11C01などを指定していて商品は類似)。
日本ズーム社の商標「」は「ズーム」と読めないのだからアルファベット文字の「ZOOM」とは似ていないと判断されたのか?というお話です。このことも、米国Zoom社の出願における意見書でも触れられています。
裁判所がどう判断するかに注目
日本ズーム社としては、社名でもありますから、当然自社の商標「」は「ズーム」と読めると主張するでしょうし、商標権侵害だと主張することでしょう。
一方、特許庁における米国Zoom社の主張内容を見る限り、米国Zoom社としては、日本ズーム社の商標は「ズーム」とは読めないし、見た目も違うのだからお互いの商標は似ておらず、日本ズーム社の商標権を侵害していないという主張を展開していくのだろうと考えられます。
結局、日本ズーム社の商標「」が「ズームと読めるのか読めないのか」という点が大きな争点になると思われますが、他人の商標も併存して登録になっていますので、裁判所ではそのことも考慮して侵害かどうかの判断がなされることになるでしょう。この訴訟の結末には注目が集まりそうです。
なお、日本ズーム社の商標権は、既に登録から5年を経過していますので、米国Zoom社としては特許庁に商標登録の無効審判を提起することはできません。おそらく、裁判所での争いが主戦場になっていくことでしょう。
別件の争いも|不使用取消審判
ちなみに、米国Zoom社の出願の拒絶の根拠になっているもののうち、株式会社トンボ鉛筆の「ZOOM」(上記の引用商標1)に対しては、不使用取消審判を提起しているようです。請求人は米国Zoom社だけかと思いましたが、米国Zoom社が提起する1ヶ月前に、別の会社も不使用取消審判を提起していたようです。商標「zoom」を巡る争いは、今後も続きそうです。
以上、勝手に考察してみました。全て公開情報に基づいて記載をしておりますが、実際とは異なる可能性が多分にありますので、ご留意ください。
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