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038:【事業者・士業向け】続・既に他人の商標登録があったときの対応方法③借りる(許諾を受ける)

「知的財産は難しい」とよく言われます。このblogは、知的財産に関する疑問・悩みに答えていく「解説」記事です。「知的財産が分かった」を目指して、すっと理「解」していただけるように噛み砕いて「説」明していきます。

さて、今日のお題は「続・既に他人の商標登録があったときの対応方法③借りる(許諾を受ける)」です。

3回目となり、連載のようになってきていますが、10月11日以降の記事の続編ということになります。

とかく複雑になりがちな知財のお話ですが、コンパクトに分かりやすくまとめていきたいと思います。

目次


  • 形がない商標を借りるとは、つまり許諾を受けること
  • 許諾には大きく分けて4つ種類がある
  • どの使用許諾にするかは目的によって使い分けを

形がない商標を借りるとは、つまり許諾を受けること


商標というのは、ほとんどが目に見えるものではありますが、物理的に実在するものではなく、無体なものです。このため、他の財産とはどこか勝手が違うような印象を持たれることが少なくありません。

確かに、要所要所で勝手が違うところはあるのですが、商標は、映画や車と同じように、持ち主から借りることができます。レンタルというとイメージがつきやすいでしょうか。

お金を支払うことの方が多いでしょうけれども、お互いが良ければ、タダで借りることもできます。

さて、貸し借りのお話に入る前に、そもそも論をお伝えしておきます。

商標権を持っている人のことを商標権者といい、商標権者は、その商標を独占的に使用することができます。短いので条文を見ておきましょう。

商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。(但書省略)

商標法第25条

「専有」という言葉があまり見慣れないかもしれませんが、「独占して保有する」程度に読み替えてよろしいかと思います。そして、この独占しているということの延長で、商標権者は誰かに自分の商標を貸すことができるということになります。

ただし、前記の通り、商標は無体なものですから、物理的に貸し渡すことができません。このため、商標を貸し出すときには、「この商標を使っていいですよ」というように、「使用の許諾」をすることになります。

許諾には大きく分けて4つ種類がある


このように、商標を貸し借りするときには、商標の使用許諾というやり方になります。それでは、使用許諾というのは、どのように行うのでしょうか。

商標の使用許諾は、商標法には2種類ありますが、実際上はもう少し細分化されていて、4つに分類されますので、簡単にご紹介します。

① 専用使用権

商標法に定められているやり方で、特許庁に登録をする必要があります。

専用使用権を得ると、設定された範囲内で、その商標を独占的に使用することができるようになります。

その範囲内では商標権者も商標を使うことができなくなりますので、非常に強い権利であると言えます。

この場合、商標権者は、自ら使えないばかりでなく、別の人にその商標の使用許諾をしてはならないことにもなります。

② 独占的通常使用権

専用使用権ほどには強力でなくてもいいけれども、独占的には使いたいというニーズから編み出されたのが、独占的通常使用権です。

これは、商標法に定められているものではなく、登録をする必要もありませんが、商標権者との契約で、独占的に使うことを認めてもらうというやり方です。

この場合、商標権者は、別の人にその商標の使用許諾をしてはならないことになります(これができるとなると「独占」ではなくなってしまいます)。

専用使用権を設定する契約をしておきながら、登録をしていない状態というのは、独占的通常使用権があるものと解釈された事例があります。

③ 通常使用権

こちらは、専用使用権と並んで商標法に定められているやり方です。

登録をすることなく、商標権者と合意をしさえすれば設定をすることができますので、広く活用されている方法です。

ただし、登録をしておかないと、通常使用権を設定してもらった後に、商標権を譲り受けた人や専用使用権の設定を受けた人に、自らの通常使用権を主張することができなくなります(業界では「対抗要件」なんて言います)。

この場合、通常使用権を設定されていたにも関わらず、後から商標を使うことができなくなってしまうので、事業継続上のリスクを抱えることになります。

このため、通常使用権であっても、登録を受けておくことが望ましいと言えます。

④ 権利不行使の合意

最後のこちらは、権利を設定してもらうというものではなく、商標権を行使しないことの合意をしておくというものになります(小難しくいうと「禁止権解除契約」と呼ぶことがあります)。

自分が使いたい商標と、他人が保有する登録商標が、商標実務上では類似するけれども、お互いに棲み分けができているような場合に、この合意をすることがあります。

どの使用許諾にするかは目的によって使い分けを


以上、商標について許諾を受ける場合には、4つのパターンがあることをお伝えしてまいりました。

あるブランドを一手に引き受けて独占的に事業を進めていきたいという場合には、専用使用権や独占的通常使用権を獲得できるように交渉に臨む必要があります。

しかし、複数いるうちの一社として商標が借りられたらいいという場合には、通常使用権を獲得する方向で進めることになるでしょう。

他方で、特許庁の審査で他人の登録商標を引用された場合というのはどうでしょうか。

もちろん、自分が使おうと思っていた商標とズバリ同じものがある場合もありますが、多くは、別物かもしれないけれども法的には似ている商標というのが多いのではないでしょうか。

この場合、何も他人の登録商標そのものを使いたいわけではないから通常使用権ですら要らない、というのが本音だと思います。

こういう場合には4つ目の、商標権者との間で、権利を行使しないことの約束を取り付けるということが選択肢に入ってきます。

もちろん、商標権者と合意をしたからといって、その合意の効力はお互いの間だけですから、全然知らない別の誰かから権利行使を受ける可能性は十分にあります。

このため、自分の名義で商標登録を獲得することを第一に目指していくべきではあります。

ただ、商標権者との合意を取り付けることにより、少なくともその人からは権利行使を受けないことが約束されるのですから、一応の事業の継続のためには必要なアクションという場合もあり得ますので、ご紹介を致しました。


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