平成24年(ワ)第6896号:商標権侵害差止等請求事件(商標法第32条:約23年間の使用により先使用権が認められるか)

商標の保護は、商標登録を受けることにより発生する商標権に基づきます。

商標権を持たずに商標を使っていると、他人から商標権侵害として差止請求を受けたり、損害賠償請求を受けたりします。

一方、商標権を持っていなくとも、先使用権により継続的な使用が認められる場合があります。

しかし、先使用権が認められるには、他人の商標登録出願の時点における周知性が必要であるとされます。

この事件では、約23年間にわたる継続的な商標の使用により、先使用権が認められるかが争点となりました。

本件は、「Cache」の欧文字からなる上記商標(登録第5441186号商標)についての侵害事件で、被告は長期にわたる継続使用を根拠として先使用権を主張して争ったところ、大阪地方裁判所は、次のように判断しました。

先使用権に係る商標が未登録の商標でありながら,登録商標に係る商標権の禁止権を排除して日本国内全域でこれを使用することが許されるという,商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことに鑑みると,本件においても,単に当該商標を使用した美容室営業の顧客が認識しているというだけでは足りず,少なくとも美容室の商圏となる同一及び隣接する市町村等の一定の地理的範囲の需要者に認識されていることが必要というべきである。

被告は,被告標章1について特段の広告宣伝活動をしていなくても,被告店舗1を約23年間営業してきた事実をもって,上記周知性が認められると主張する。しかしながら,被告が長年の美容室営業によって固定客を獲得しているとしても,同一及び隣接する市町村等には他の美容室を利用する者も多数存在していると考えられ,これらの者の被告標章1に関する認識は全く明らかでないことからすれば,被告標章1が「需要者の間に広く認識されているとき」に当たるということはできない。

として、被告側の主張は退けられました。

この事件は、単に長期間営業してきたという事実のみでは先使用権は認められないことを示したものとなります。

判決文はこちらからご覧ください。

裁判所|裁判例結果詳細

PAGE TOP