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005:【事業者・士業向け】会社名・屋号と商標について|会社名・屋号だから商標登録が不要というのは大きな誤解

「知的財産は難しい」とよく言われます。このblogは、知的財産に関する疑問・悩みに答えていく「解説」記事です。「知的財産が分かった」を目指して、すっと理「解」していただけるように噛み砕いて「説」明していきます。

さて、今日のお題は「会社名・屋号と商標について|会社名・屋号だから商標登録が不要というのは大きな誤解」です。

目次


  • 登記時の会社名の審査は極めて限定的(類似商号規制の撤廃)
  • 近年注目の〈商標〉のケアを忘れないように
  • 商標かどうかは主観ではなく客観的に判断される
  • 商標は先手必勝。誰よりも先に願書を特許庁に提出するべし

登記時の会社名の審査は極めて限定的(類似商号規制の撤廃)


会社を立ち上げるときには、会社名を決めて、法務局に商業登記を行います。個人事業を始めたときには、屋号を決めて、税務署に開業届を提出します。

しかしその中で、法務局の人も税務署の人も、商標登録のことまでお話になる方はどれほどいらっしゃるでしょうか。

おそらく、会社の立ち上げや個人事業の開始のときには、法務局なり税務署なりに書類が無事に受理されて一安心という方は少なくないと思われます。

しかし、法務局に対する商業登記手続きは会社設立のための手続きで、その一環として会社の名称を定めるものと言えます。

法務局では、同一の住所に同一の名称の会社が存在しない限りは、会社名の登記が問題になることはありません(いわゆる類似商号規制が撤廃されたため)。

また、税務署に対する開業届は、個人事業を開始したことを届け出るもので、屋号についての審査はありません。

同一の住所に同一の名称の会社を設立するというのは、わざとやろうとしない限りはなかなかお目にかかれないものと考えられます。よって、実際上、普通に事業を行おうというときには、商業登記の手続や開業届の提出の段階で、会社名や屋号が問題になるということは、ほとんどないと言って良いでしょう。

なるほど、それでは安心だ、ということがこの記事の本題ではありません。むしろ、ここで安心してしまうことが落とし穴だということをお伝えしようというのが、この記事のテーマです。

近年注目の〈商標〉のケアを忘れないように


タイトルにも記載をしておりますが、気をつけなければならないのは、「商標」です。近年、商標が問題になったニュースを見ることが増えており、一度は聞いたことのある方も少なくないかと思います。

商標は、文字通り、「商品の目印」です。もちろん、商品という物体だけではなく、「サービスの目印」もこれに含まれます。歴史的には、もともとは商品の目印のみが保護対象とされていたことに由来する呼び名とはなっていますが、平成4年の法改正で、サービスも保護対象に加わり、そのときには「トレードマーク」に対比して「サービスマーク」と呼ばれていました。

さて、話を戻しますが、会社を立ち上げたり事業を開始しようという場合、何らかの商品を売ったりサービスを提供したりすることで対価をもらい、売り上げを立てようと考えられていることかと思います。

ここで、具体的な商品名やサービス名が商標であることは疑いようないものですが、会社名や屋号も、実は商標として機能しているのだ、ということをお伝えしたいと思います。

商標かどうかは主観ではなく客観的に判断される


よくある誤解が、「商標と思って使っていないから商標登録は要らないのではないか」というものです。

これは、商標かどうかはそれを使う人の主観で変わるだろうというお考えに基づくものと思われますが、ある文字や図形などの表示が商標になるかどうかは、主観ではなく、客観的に判断されます。

つまり、使う人がどう思っていようと、商品やサービスとの関係で使われている文字や図形などの表示が、法律的に商標に該当するものであれば、商標となるということです。

これはつまりどういうことでしょうか。使っているご本人が意図していなくても、実際上は商標を商標として使っているということがあるということです。

会社名や屋号を、あたかも商標のようにお使いになっていたりはしないでしょうか。パッケージやカタログ、店舗、ウェブサイトなどに、会社名や屋号を目立たせるように使っていたりはしませんか。

いくつか例をあげてみたいと思います。思い当たるところがあった方は要注意です。

  • 美容室-会社名が店舗名にしていたりしませんか。
  • アパレル-会社名がブランドになっていたりしませんか。
  • Webサービス-いくつもの個別サービスを含むように会社名がサービスサイトに載っていたりしませんか。

商標は、登録を受けることによって商標権で保護を受けることができます。他人が商標権を有していて、それを侵害してしまう(無断で商標を使う)と、商標権侵害ということになります。これも、ご本人の意図や主観は関係なく、商標権侵害という事実状態があるかどうかが客観的に判断されます。

例えば「キリン」の「一番搾リ」、「マイクロソフト」の「WINDOWS」、「トヨタ」の「LAND CRUISER」。

どれも会社名(の一部)と、商品名です。そして、これらの全てが商標=ブランドです。

商標は先手必勝。誰よりも先に願書を特許庁に提出するべし


商標は、登録を受けておかないと、誰でも取れてしまう類の権利です。そのブランドが圧倒的に著名ということであれば別のルールが適用されることもあるのですが、まさにこれから始めようという段階では、ご自身のブランドの認知度はとても低いものでしょう。

頑張って事業を進めていき、段々に認知度が高まってきた時点で、実は他人に商標権を取られていた、あるいは他人の商標権を侵害していた、ということでは、せっかく積み上げてきたブランドの信用が崩れてしまいかねません。

前記の有名ブランドのどれも、長い時間と費用をかけて育て上げられたものであることは疑いありません。

しかし、ここまでに成長することができたことの背後には、しっかりと商標権を獲得することで、安全・安心の状態を確保していたということを覚えておいていただけたらと思います(「LAND CRUISER」は1955年に出願)。

明日明後日、いつでもやめていいという事業を進めている方はいらっしゃらないと思います。

末永く皆さんに愛されるブランドを育てるためにも、まずは会社名・屋号から、そして商品名・サービス名の商標登録を行うことを忘れないでください。

トラブル解決のコストに比べたら、保険のようなものと言えます。

実際は、商業登記や開業届を行う前に、少なくとも商標登録が可能かの確認をしておくことが望ましいでしょう。


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