わかって納得の知財ブログ

050:【初心者向け】保険の目線から考える商標登録のポテンシャル

「知的財産は難しい」とよく言われます。このblogは、知的財産に関する疑問・悩みに答えていく「解説」記事です。「知的財産が分かった」を目指して、すっと理「解」していただけるように噛み砕いて「説」明していきます。

おかげさまで50本目の記事となりました。いつもご愛読ありがとうございます。さて、今日のお題は「保険の目線から考える商標登録の必要性」です。普段は商標法的な観点からの記事が多いですが、今回は視点を変えて、保険の目線から、なぜ商標登録が必要と言えるのかを考えてみたいと思います。

目次


  • 無権利(商標登録なし)での事業運営は無保険で車を運転するようなもの?
  • 商標権を持っていれば、他人の権利を侵害していないことがはっきりする
  • 商標権を持っていれば、ブランドを盗まれない(勝手に使われない)で済む
  • 商標権を持っていれば、ブランドを盗まれても(勝手に使われても)やめさせたり賠償請求できる
  • 商標権の財産的価値

無権利(商標登録なし)での事業運営は無保険で車を運転するようなもの?


まずはじめに、今更感はありますが、保険というものがどういうものかを改めて確認してみたいと思います。辞書によれば、「保険」とは、次のようなものであると記載されています。

火災・死亡など偶然に発生する事故によって生じる経済的不安に備えて、多数の者が掛け金を出し合い、それを資金として事故に遭遇した者に一定金額を給付する制度。

デジタル大辞泉|ほ‐けん【保険】より

将来発生するかもしれない事故に、少ない掛け金を出して備える制度と言えます(保険の専門家の方からすれば異論はあるかもしれませんが、少々お付き合いください)。自動車で言えば、他人の自動車との衝突や人身事故、自損事故のように、様々な事故が想定されますが、その損害額は、時に高額になってしまいます。事故が起きた時に、自腹で全額を賄うことは通常難しいでしょうから、多くの人が自賠責保険に加えて任意保険にも加入しています。生命保険も同様で、将来発症するかもしれない病気に備えて加入している人も多いかと思います。

ではこうした「保険」というものを、知的財産-商標になぞらえて考えてみましょう。ビジネスを行うにあたり、商品やサービスの目印を使うことはほぼ避けられないと言えるでしょう。飲食店や美容室に限らず、飲食料品や文房具、コンピュータ機器、化粧品、アクセサリーなど、ありとあらゆる商品・サービスには目印を付けています。

ここで、商標登録のことを完全に無視してビジネスを行うとどういうことが起きるでしょうか。偶然にも、他人が既に商標登録を受けている商標とそっくりなものを、同じような事業についてあなたが使ってしまったとしましょう。そうすると、商標権者である他人は、あなたの商標の使用を問題視して、使用の停止や損害の賠償を求めてくることでしょう。

何の権利も持っていないあなたは、反論の余地がなければ、まさに言われるがままに商標の使用を停止し、看板や印刷物などの差し替え、さらには損害の賠償も行わざるを得ないという場合も出てきてしまいます。取引先にも説明に奔走することにもなりかねません。そうすると、ある日突然に起きた自動車事故のように、多額の出費と労力を強いられることになってしまいます。

ですが、ここで思い返していただきたいのが、そもそも商標登録のことを完全に無視してしまっていた、という前提事情がありました。もしビジネスを始める段階で、「商標は大丈夫だろうか?」と思い至ることができればどうだったでしょうか。こうした事例は決して珍しくなく、いち弁理士としては、とても残念でなりません。

商標権を持っていれば、他人の権利を侵害していないことがはっきりする


もしビジネスを始める段階で、商標のクリアランスをしていたらどうなっていたかを考えてみましょう。まずは希望する商標とそっくりなものが既に存在しないかを確認することになります。ここで問題になりそうな商標が見つかった場合には、事業開始前に方針転換ができました。

調査の結果、特に問題となりそうなものが見つからなければ、特許庁に登録に向けて出願手続を進めることになります。無事に審査を通過すれば、商標権を取得することができました。商標権を持っているということは、その権利範囲内においては、誰にも邪魔されず独占的にその商標を使うことができます。

もしその商標が、他人の商標権を侵害するものであれば、特許庁の審査を通過することはできませんから、これを裏返せば、他人の商標権を侵害していないことの確認が取れているということになります。

これは、単純なことのようで、実はものすごいアドバンテージです。

他人から商標権侵害の疑いをかけられた段階で、反論をしたり、場合によっては裁判にまでもつれ込んでしまうと考えると、その対応費用だけで馬鹿にならないコストがかかります。こうしたコストは、防衛のためだけの費用ですから、後ろ向きなものと言えます。

しかし、商標登録に向けて手続をとっていくというのは、防衛のための費用に比べれば圧倒的に安い金額で、大きな安心を得ることができます。

これは、将来発生するかもしれない事故(商標権侵害の疑いをかけられること)に、少ない掛け金(商標登録のための費用)を出して備えること-つまり、商標登録は、将来の安心に繋がるのだと理解することができるのではないでしょうか。

商標権を持っていれば、ブランドを盗まれない(勝手に使われない)で済む


商標権を持っていることが、将来の安心に繋がることが分かりましたが、メリットはこれだけでしょうか。商標登録されている事実は、対外的に公開されますので、その商標が登録されているか、権利範囲はどうなっているかというのは、調べれば分かります。

つまり、誰かがあなたのブランドとそっくりなものを使おうとして、特許庁に出願しようとしたときには、あなたがされたように、誰かが商標登録していないかというのを調べることでしょう。そうすると、あなたが商標権を持っていることを知った他人は、そのブランドを使うことを避けることになります。

もしあなたが商標権を持っていない場合、あなたのブランドとそっくりな商標を他人が使ったとしても、やめろという手段に乏しい状態になりますので、他人への牽制力を公示しておくことができる商標権というのは、とても便利だと言えます。

商標権を持っていれば、ブランドを盗まれても(勝手に使われても)やめさせたり賠償請求できる


さらに、商標権を持っていれば、誰かがあなたに無断で登録商標とそっくりな商標を使っている場合に、使うなと要求することができることになります。さらに、損害が発生していれば、賠償請求まで行うことができます。

ブランドというのは、形のないものですから、無断利用が全国で同時多発的に起こりうるものです。ですから、ブランドの価値を維持・向上していくためには、他人による無断使用を徹底的に排除していく必要があります。

商標権の効力は日本全国に及びますので、あなたのビジネスの主戦場が例えば東京23区だったとしても、北は北海道、南は沖縄までに及びます。現代はインターネットを使えば簡単に商品を購入したりサービスの提供を受けることができますので、全国に効力が及ぶ商標権の存在価値は、むしろ高まっていると言えるでしょう。

これは、他人にブランドを盗まれても(勝手に使われても)、損害金額を返せと言える意味で、比喩的に盗難保険のような側面があると言えるかと思います。

商標権の財産的価値


独占的に商標を使い続けることで、その商標に積み重ねられていく信用は、次第に財産的価値を持つようになります。先日、2021年版の世界ブランドランキング(インターブランド|Best Global Brands 2021)が発表されましたが、第1位は「アップル」だったそうです。ブランド価値は、何と4,083億ドルとのことです。

日本円にして、46,580,497,200,000円(46兆円超)ですから、とてつもない金額ですが、商標を、ブランドを守り育てると、このような天文学的な数値まで行かずとも、財産的価値を帯びてくることになります。商標権を持つことで、将来の事故に備えるばかりでなく、財産的なリターンも見込めるというのは、なんとも夢のある話ではないでしょうか。

今回は、「保険」という観点から書かせて頂きましたが、単なる「保険」にしてはオマケが大きすぎる、ある意味では「積立型のビジネス保険」と言ってみては大袈裟でしょうか。

こうした、さまざまな可能性を秘めた強力ツールが、商標権となります。商標登録をしたことがないという方は、ぜひご検討頂ければと思います。


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