昨日の記事で、商標権を譲り受けた場合には特許庁で登録を受けないと、商標権の移転(譲渡)の効力が発生しないということをお伝えしました。
今日は、商標権の譲渡契約を締結した後に、特許庁への登録申請をしていないうちに譲渡人である商標権者が破産してしまった場合に、その商標権がどのような取り扱いを受けるかを解説したいと思います。
目次
- 倒産した会社の財産は破産財団になる
- 破産財団は破産管財人が管理・処分する権利を専有する
- 破産財産に組み込まれた商標権を取り返すことは困難
破産した会社の財産は破産財団になる
会社が破産する場合、破産法に従い破産手続が開始されます。
破産手続が開始すると、破産した会社の財産は、日本国内にあるとないとを問わず、「破産財団」という財産の集合体として取り扱われます。
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
破産法34条1項
日本国内にあるかどうかを問わないとあることから、外国の商標権も含まれると考えられます。
破産財団を管理・処分する権利は破産管財人に専属する
破産財団は、通常の財産と異なり、破産管財人という、裁判所が選任した者の管理下に置かれます。
第七十八条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
破産法78条1項
この条文にあるように、破産財団に属する財産の管理や処分を行うための権利は、破産管財人に「専属」するあります。
「属する」ではなく「専属する」ですから、完全に破産管財人の元におかれることになります。
破産財産に組み込まれた商標権を取り返すことは困難
破産財団に属する財産を処分するには、裁判所の許可を得る必要があり、商標権を任意売却する場合というのは、破産法に明記されています。
第七十八条 (略)
破産法78条2項2号
2 破産管財人が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
一 (略)
二 鉱業権、漁業権、公共施設等運営権、樹木採取権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権、育成者権、著作権又は著作隣接権の任意売却
破産管財人の役割は、破産財団から可能な限り収益を上げ、破産した会社の債権者に平等に分配することといえます。
破産財団は、会社が破産した場合に、特定の債権者が抜け駆けをして債権を回収することがないよう、破産管財人の管理下に置かれ、かつ裁判所のチェックが入っているわけです。
破産法53条の規定ぶりから、破産開始時の時点で、商標権の譲渡代金を支払っていない場合であって、かつ、破産管財人が破産会社の債務を履行することを選択してようやく、商標権が無事に移転してもらえることになると考えられます。
第五十三条 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
破産法53条1項
万が一のことが起きても大丈夫なよう、商標権の譲渡を受ける場合には、代金の支払いは譲渡証の受け渡しと同時かその後とし、譲渡契約を締結したら可及的速やかに特許庁へ登録を行うというのが、実務的なポイントになってくるものと考えられます。
なお、譲渡対価の支払いを譲渡証の受け渡しと同時とすることは、契約に特に定めがない限り、同時履行の抗弁権という権利が認められていることから(民法533条)、何らおかしなものではありません。
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