商標調査をしたり、商標登録出願をして審査結果を受け取ったりしたタイミングで、自分が希望する商標と似ている他人の商標が見つかることがあります。
審査官に対して、自分の商標とは似ていないことを説明して反論をするために意見書を提出するという正面突破の手段もありますが、他にやり方はないのでしょうか。
他人の商標が既に存在していた場合の対応方法については、過去に少し書いたことがありますので、以下の記事もご参照ください。
040:続・既に他人の商標登録があったときの対応方法⑤潰す(取り消す・無効にする)
今回は、既に登録されている他人の商標が、実際には使われていない場合に有効な手段となる、「不使用取消審判」について解説したいと思います。
目次
- 他人の商標登録があっても諦めるのはまだ早い|不使用取消審判とは
- 不使用取消審判の成功率は7割超
- 不使用取消審判はどういう場合に認められるか
他人の商標登録があっても諦めるのはまだ早い|不使用取消審判とは
不使用取消審判というのは、その字の通り、使用されていない商標登録を取り消すための審判をいいます。
具体的には、商標登録を受けた後、継続して3年以上の間、日本国内で登録商標が適切に使用されていない場合には、特許庁に請求することで、その登録商標にかかる商標登録を取り消してもらうことができる制度をいいます。
商標は、使われ続けることで価値を発揮するようになりますが、逆に、全く使用されていない商標は、法的には価値がないと言えます。そして、その価値がない商標についての登録が残り続けると、後から同じような商標を使いたいと考える人にとって、商標の選択肢が狭まるという意味で、迷惑がかかります。
こうしたことから、先に登録を取ったのだからという先行者利益と、使ってもいないのなら使わせろという後行者利益のバランスを取ることが必要ということで設けられた制度とも言えるでしょう。
したがって、商標権者目線で考えると、商標登録を受けたらそのあとは一生安心、というものではなく、ちゃんと使い続けることが大切ということがお分かりいただけるかと思います。
一方の、後から参入しようとする人の目線からすると、自分の希望する商標と同じような先行商標が見つかっても、使われていないようであれば、まだ諦めるのは早いということになります。
不使用取消審判の成功率は7割超
このような取消審判ですが、実際に提起をしてみると、7割以上の商標登録が取り消しになっていることがわかります。
特許庁の統計によれば、2020年に提起された不使用取消審判を主とする取消審判は1011件で、2019年が996件となっています。
そして、取り消し決定となったのが、2020年は769件、2019年は747件となっています。
請求時期と判断時期にずれが生じますので、内訳としての数字ではありませんが、2年連続、割ってみると7割を超えますので、概ねの傾向として、7割以上が取り消しとなっていることがわかるかと思います。
やってみたけど空振りだったという確率が高いとやる気が削がれますが、7割越えというのは、決して低い数字ではないと思われます。
不使用取消審判はどういう場合に認められるか
不使用取消審判というのが、商標権者とそうでない人の利益のバランスをとった制度で、しかも成功確率がそれなりに高いことがわかりました。では今度は、もう少し掘り下げてみて、取り消しのためにはどういう条件が必要かをみてみたいと思います。
まず、この制度の法的根拠を挙げますと、商標法第50条というものがあります。その第1項に、請求するための条件(要件)が書かれています。
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
商標法第50条第1項
これを分節して見てみますと、次のように分けて考えることができます。
1. 継続して三年以上
継続して3年以上ということですから、審判が請求されたことが特許庁に記録された日(予告登録がされた日)から遡って3年間対象期間となります。その間に使われていない商標登録は取り消し対象になります。
よって、最も早いタイミングは、商標登録の日から3年間全く使っていないという場合、条件を満たすことになります。
この他にも、商標登録を受けてからしばらくは使っていたけれども、ある時から使わなくなりそのまま寝てしまっているという期間が3年以上経っているという場合も、条件を満たすことになります。
2. 日本国内において
日本で商標登録を受けているけれども、実際に商標を使っていたのが外国だけであったという場合、日本での商標登録を維持するための条件を満たすものとは言えません。
もっとも、輸出行為は日本における商標の使用として認められますので、登録商標が付された商品を海外に輸出していた場合、反論の余地があると言えます。
3. 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが
登録商標を使っていたのが、商標権者か、商標権者から許諾を受けた者のうちの誰かであることが必要です。
当たり前のことを言っているように思われるかもしれませんが、これにはちゃんと意味があります。
決して多いケースではないとは思いますが、自分や関係者は登録商標を全く使っていなかったものの、全く見知らぬ第三者が勝手に登録商標を使っていた(商標権侵害ですが)という場合に、この一言が効いてきます。
この侵害状態の第三者による使用を証拠にできるかというと、この条件から否定されることになります。
4. 各指定商品又は指定役務についての
登録商標を一体なんの目印にして使っていたのかということも無視できません。
商品「化粧品」について商標登録を受けていたのに、実際に使っていた商品が「靴」だったら、それは化粧品について登録商標が使われていたことにならないことはお分かりいただけると思います。
この場合に、靴について使っていたという事情をもとに、化粧品についての商標登録を維持されてしまうと、納得いきませんよね。
商標登録を受ける時には、一体なんの目印にするのかという権利範囲を設定するのですが、この範囲内で使っていないと、この条件に照らして不使用状態だと判断されてしまうことになります。
なお、権利範囲内での使用であっても、部分的な取り消し請求がされた場合には、その請求がされた商品・サービスについての使用がなければ取り消されますので、ご注意ください。
5. 登録商標の
これも当たり前のように思われるかもしれませんが、実はここが大きな問題になるところです。
商標登録を受けようとする時に、実際にどのように商標を使うかを考え抜いて出願をすれば、多少はリスクは軽減できるのですが、登録を受けた後に、使い方が変わってしまったという場合、問題になります。
例えば、標準文字(タイプ打ち)の態様で商標登録を受けた後に、実際にはロゴ化して使うということは少なくないと思います。
このロゴ化の程度が非常に高度である場合や、元々の登録商標中にある構成の一部を除外してしまったりという場合、自分が使っていたと出せる資料が改変後のものですから、特許庁の審判では、改変後の商標が、登録商標の使用と言えるかが判断されることになります。
6. 使用をしていないときは、
登録商標をどこに使っていたかというのも問題になります。
例えば、会社の名刺にだけ表示していたような場合はどうでしょうか。
稀に、チラシかリーフレットかと見紛うほどの凝ったデザインの名刺に出会うこともありますが、通常は具体的な商品やサービスとの関連性がないものばかりでしょう。
そうすると、登録商標が指定した商品やサービスとの関係で使用されていたことを示すものとは認めてもらえません。
また、社内である商品の呼び名として呼んでいるけれども、実際にはどこにも表示されないというような場合も、登録商標が使用されていたとは言えません。
7. 何人も、
「なんにんも」ではなく、「なんぴとも」と読みます。「誰でも」という意味ですね。
不使用取消審判は、利害関係がなくても誰でも請求できることを示しています。
8. その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて
商標登録の全てを取り消すことも、範囲を絞って一部を取り消すことのどちらも選べることが、この一言からわかります。
他人の先行商標は幅広く商標登録がされているけれども、自分が欲しいのはその一部だという場合には、範囲を絞って不使用取消審判を提起する方が良いです。
9. 審判を請求することができる。
最後です。この一言から、特許庁が未使用の商標を自発的に取り消すためにパトロールをするものではないことがわかります。
あくまでも、取り消しを求められたら、特許庁は対応しますということが、この一言に込められているんですね。
以上、不使用取消審判の請求のための条件を見てきました。
この記事には続きがありますので、こちらからどうぞ。
064:【事業者向け】使われていない商標の登録が見つかったときの対応②|不使用取消審判の準備と流れ
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