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064:【事業者向け】使われていない他人の登録商標が自社ブランドを商標登録するときの障害になる場合の対応②|不使用取消審判の準備と流れ

前回の記事で、他人の商標登録が既にある場合でも、不使用取消審判という制度を使うことで、使われていない商標登録であれば登録を取り消すことができ、近年ですと、成功率が70%を超えている統計が出ているとお伝えしました。

まだご覧になっていない方は以下の記事もどうぞご覧ください。

063:【事業者向け】使われていない商標の登録が見つかったときの対応①|不使用取消審判の活用方法

では、その不使用取消審判ですが、どのようなハードルがあるのでしょうか。とるべき準備と流れををみていきたいと思います。

目次


  • 取り消しを求める範囲の設定が重要
  • 使っているかどうかの証拠は商標権者が提出する
  • 平均審理期間は8.8ヶ月|使用証拠の提出がなければ早期に取消決定
  • 提出された使用証拠が適当かの反論が可能

取り消しを求める範囲の設定が重要


不使用取消審判を請求するときには、対象とする商標登録の全部か一部かを選無ことができます。

せっかくなら全部請求してしまえばいいのでは?と思われるかもしれませんが、ちょっと待ちましょう。

結論からお伝えすると、むやみに広く取り消しを求めない方がいいと言えます。

なぜかというと、取り消しを求めた範囲のうち、どれか一つについての使用が認められると、取り消し請求をされた範囲全体の登録が維持される(取り消されない)ことになるからです。

ご参考まで、根拠条文を挙げておきます。下線部がポイントです。

2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。

商標法第50条第2項

これはどういうことでしょうか。簡単に言いますと、例えば、ある商標登録で指定する商品が「被服,履物,帽子」だったとします。実際、登録商標を「帽子」には使っていなかったものの、「被服,履物」には使っていたという場合、「帽子」にだけ取り消し請求をすれば、使用証拠が出せないことになり「帽子」の部分について取り消しとなります。

しかし、全部の商品「被服,履物,帽子」について取り消し請求をすると、商標権者としてはこれらのうちのどれかについての使用証拠を出しさえすれば、全部の商品「被服,履物,帽子」についての登録を維持することができるようになりますので、結果として、使用証拠が出せないはずの「帽子」の部分についての取り消しが認められないことになります。

ですから、自分が本当に必要という範囲でのみ取り消し請求を行うということが、成功確率を高める意味でも非常に重要になってきます。

どの範囲で取り消し請求をすればご自身の目的を達成することができるかというのは、実際に専門家にご相談いただいた方が良い性質の事柄となりますので、覚えておいてくださいね。

使っているかどうかの証拠は商標権者が提出する


では、実際に不使用取消審判を提起してみようと思ったときに疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、使っているかどうかは自分が調べるのか?という問題です。

もちろん、やみくもに不使用取消審判を提起すれば、それはただの無駄遣いですので、ある程度は調べた方が良いでしょう。

しかし、不使用取消審判を提起するに当たって、請求する側が積極的に調査をして、その結果を証拠として提出することまでは求められていません(日本では、ですが)。

登録商標を使って入れば、証拠を提出することは簡単でしょうということで、商標権者が証拠を提出することになっています。

一応、同じ条文ですが、根拠を示しておきますので、ご興味のある方はご一読ください。下線部のとおり、「被請求人が証明しない限り・・・取り消しを免れない」とありますね。「被請求人」というのは、審判請求を被っている人なので、つまり商標権者です。

2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない

商標法第50条第2項

このように、不使用取消審判を提起するにあたっては、あまり詳しいところまで調査する必要もないということがお分かり頂けたかと思います。

不使用取消審判をかけられた側としてはたまったものではありませんが、請求する側としては、心理的ハードルが多少下がるのではないでしょうか。

平均審理期間は8.8ヶ月|使用証拠の提出がなければ早期に取消決定


では次に、その不使用取消審判にはどのくらいの時間がかかるのかをお伝えしていきたいと思います。

特許庁の統計によれば、2020年に提起された取消審判の審理にかかった期間は平均で8.8ヶ月であったとのことです。

これは、審判請求の日から、審判の結果である審決の発送日までの期間とされます。実際、審判請求があると、特許庁で方式的な審査がされたり、審判官が誰になるかが決まったりしますので、商標権者の元に審判請求があったことの通知(答弁指令)が行くのは、審判請求があってから1〜2ヶ月後ということになります。

そして、審判請求があったことの通知(答弁指令)がありますと、国内の商標権者は40日以内、海外の商標権者は70日以内に答弁をする(使用証拠があるなら提出する)ことが必要になります。

もしこの期間内に答弁がなされない場合(こういう場合、使っていないから放置というケースが多いです)、これ以上審理を続けても無駄ですので、再度の機会が与えられることもなく、審判は終結に向かいます。

つまり、商標権者らが登録商標を使っていない場合、早ければ4〜5ヶ月で取り消し決定が出る計算になります。

最近の商標登録出願の審査は半年から1年程度ですので、出願時に一緒に手続きを執っておくと、並行して進めることができることになります。

提出された使用証拠が適当かの反論が可能


前記のように、商標権者が答弁しない場合には比較的早く結論が出ることになりますが、もちろん商標権者が反論をしてくる場合もあります。

この場合に、商標権者の一方的な意見だけを聞いて判断がされるわけではなく、審判を請求した側にもちゃんと意見を述べる機会が与えられます。

審判の予告登録の日の前3年以内の使用を示す証拠なのか、取り消し請求をしている商品やサービスについての証拠と言えるのか、使われている商標は登録商標と同じと言えるのか、といった観点が意見を述べていくポイントとなります。

この辺りは、法的な判断も必要になりますので、やはり、専門家の力を借りるべきところであると言えます。


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