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071:【初心者向け】いちごの品種と商標のお話〜「とちおとめ」と「あまおう」を例に〜

段々と冬の気配が近づいてくると、いちごの季節がやってきたと感じます。

夏は桃、冬はいちごと心に決めている僕としては、いちごが出回る季節になると、青果コーナーが楽しくなります。

さて、今日はそんないちごを題材にしたお話です。

早速ですが、ご存じ「とちおとめ」と「あまおう」、商標登録されているのはどちらと聞かれて即答できますでしょうか。

え、どちらも品種名じゃないの?と思われた方は鋭いですが、不正解です。今日は、品種登録と商標登録について解説していきます。

目次


  • 品種登録と商標登録は所管する官庁が異なる別の制度
  • 商標登録された名称は品種名とはできない
  • クイズの答え
  • 新しい植物品種のブランディングをどうするか

品種登録と商標登録は所管する官庁が異なる別の制度


品種登録と商標登録、どちらも「登録」をする制度ですが、実は全く異なる制度になっています。

品種登録は種苗法(「しゅびょうほう」と読みます)という法律に基づくもので、新たに育成された植物の品種を保護するための制度です。農林水産省が所管です。

一方の商標登録は、商標法に基づくもので、事業上の目印を保護するための制度です。特許庁が所管です。

どちらも形式的には名称を登録する格好になりますが、品種登録は品種自体を特定するために名称を定めるものですので、品種登録がされると、その品種の販売の際にはその名称を使用しなければならなくなります。この義務は、品種登録の失効後も継続します。

他方、商標登録は商品やサービスの名称等を独占するものですので、商標登録がされると、許諾なくその商標を指定する商品・サービスについて使用をすることができなくなります。しかし、商標登録が失効すれば、商標権が消滅しますので、他に同一または類似の登録商標がない限り、その名称を使うことは憚られませんし、使わないのも、もちろん自由です。

このように、名称使用の独占を認める商標登録制度とは趣が異なる制度であることがお分かり頂けるのではないでしょうか。

商標登録された名称は品種名とはできない


こうした違いから、品種登録を受ける際には、商標登録とは異なる制約が課されます。

登録商標は、特定の人が独占している状態にありますので、普通名称となってしまう品種名とすることはできません。

登録商標を品種登録の願書に品種名として記載をすると、「名称の変更命令」が発せられ、期限内に名称を変更しないとならなくなります。

品種登録された品種名は商標として登録できない


一方、ひとたび品種登録がされると、その品種の名称はその品種を指し示す普通名称となりますので、特定の人が独占できるものではなくなります。

このため、品種登録出願で品種名として記載した名称は、その品種の商品名として商標登録を受けることができなくなります。

さらに、その品種を原材料とした加工品も、いわゆる原材料表示として、商標登録を受けられるほどに識別力がないということで、出願をしても拒絶されてしまいます。

クイズの答え


冒頭でクイズとした「とちおとめ」と「あまおう」ですが、答えを発表します。

「とちおとめ」は登録品種の名称となっています(品種登録No. 5248)。

登録品種の名称ですので、商標登録を受けることはできません。

よって、登録商標ではありません。

なお、「とちおとめ」の品種登録は既に失効していますが、前記の名称使用義務が残りますので、この品種を販売する際には「とちおとめ」という名称を使用しなければなりません。

他方、「あまおう」の登録品種の名称は、「福岡S6号」となっています(品種登録No. 12572)。

それでは商標として登録されているかというと、「あまおう\甘王」として商標登録されています(商標登録No. 4615573)。

漢字との結合にはなりますが、「あまおう」は登録商標である、そう言っても宜しいのではないでしょうか。

新しい植物品種のブランディングをどうするか


以上、いちごを題材に品種と商標のことをお伝えしてまいりました。

昨今、どのように日本の農林水産業を盛り上げていくかが喫緊の課題になっています。

この課題をより良い方向に解決していくためには、知財の活用が欠かせません。

「農水知財」という言葉を目にした方もいらっしゃるのではないかと思いますが、近年のキーワードになっています。

新品種の育成には多大なコストと時間を投じる必要があり、その努力は計り知れません。しかし、この努力の結晶を、しっかりと地域・農業分野に還元していくには、投下したコストを遥かに上回るリターンを確保しなければなりません。

そのリターンに寄与するのが、「ブランド」であり「商標」です。

品種登録と商標登録をセットに取り組み、商標でブランディングを行っていく。それを地域で一挙にPRしていく。これが、きっと日本の農林水産業を強くするための秘策ではないでしょうか。

弊所所長は、地方自治体での産業振興業務を担当しておりました上、品種登録についての知見も有しておりますので、きっと地域のお力になれると自負しております。弊所へのご相談はお気軽に頂ければと思います。


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