本日、YAHOO!ニュースで「『小室圭』が中国で商標登録申請されていた おむつや芳香剤で使用予定」という記事が配信されました。
その記事では、「商標登録については、事実上の早い者勝ちとなる先願主義を取る中国では、商標権の横取りが横行している」という解説がされています。
中国でこうした先取り出願が多いというのは昔から言われていたことですが、そもそも、なぜこうしたことが起きるのでしょうか。
今日は、制度的な面から、その理由を探ってみたいと思います。
目次
- 「先願主義」は日本をはじめとする多くの国で採用されている
- 日本と中国では権利化までのコストが圧倒的に違う
- 中国も悪意の出願についての規制強化に動いている
- 日本企業は自分が思うよりも中国からチェックされている
「先願主義」は日本をはじめとする多くの国で採用されている
前述の記事では、中国では早い者勝ちの制度になっているということしか書かれていませんので、それ以上でもそれ以下でもないのですが、あまり知識のない方がこの記事に触れると、中国は独自路線を走っているのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これまでにも何度か記事に書いて来ましたが、日本でも、一番先に特許庁に願書を提出した人が優先する「先願主義」を採用しています。
「先願主義」の対極にある、誰が最初に使い始めたかを基準とする「先使用主義」を採用すると、全国のどこかしらかで使っていれば他人の商標登録をひっくり返せることになってしまい、法的安定性に欠けることになります。
また、出願前に調査をしようにも、先使用主義を採用していると、全国に調査員を走らせて調べる必要が生じますので、大企業有利になってしまいます。
こうしたこと事情は、日本に限らず世界各国同様ですから、世界中を見ても「先願主義」を採用している国の方が多いという状況です。
したがって、中国だけがどこか独自ルールで動いているというものではないということを、まずは確認しておきましょう。
日本と中国では権利化までのコストが圧倒的に違う
先願主義を採用している国が多いという状況で、先願主義を採用しているという点では日本も中国も同じです。
商標登録されることによって商標権が発生するという点も同じです(「登録主義」と言います)。
しかし日本では、中国ほどには商標の先取りが問題になっているようには見えません。なぜでしょうか。
理由は様々あるだろうとは思いますが、一つ客観的なものとして挙げたいのが、「権利化までのコスト」です。
弁理士などの代理人費用はひとまず横に置いておいて、特許庁(中国は知識産権局商標局)に支払う印紙代(政府費用)を比較してみます。
国名 | 出願時 | 登録時 | 合計 |
日本 | 12,000円 | 16,400円(5年分納) 28,200円(10年一括) | 28,400円(5年分納) 40,200円(10年一括) |
中国 | 300人民元(約5,400円) | 0円 | 300人民元(約5,400円) |
いかがでしょうか。日本では3〜4万円程度の費用が必要である一方、中国では約5,400円となっています。
自分が使いもしないものに何万円も投じるのは気が引けるでしょうけれども、数千円程度であれば払ってしまおうという人がいてもおかしくありません。
中国も悪意の出願についての規制強化に動いている
もう何年にもなりますが、中国では商標を売買するビジネスが流行しています。
いつか誰かが買ってくれるかもしれないと思っているのか、一社で何千件と出願をしているケースもあります。
こうした人がいることにより、本当に商標を必要としている人に迷惑がかかっているということは国としてお構いなしなのか?というと、実はそうでもありません。
中国では、2019年11月1日に施行された改正商標法の第4条第1項に「使用を目的としない悪意のある商標登録出願は,拒絶されなければならない。」との規定を追加したり(改正事項は他にもありました)、「商標登録出願行為の規範化に関する若干の規定」を2019 年 12 月 1 日から施行したりするなど、悪意の出願の規制に取り組んできました。
また、来たる2022年1月1日には、現行の「商標審査及び審理標準」に代わって「商標審査審理指南」が施行され、その中では「使用を目的としない悪意のある商標登録出願」が特別事案として取り扱われることになっています。
このように、国としても放置しているというわけではないのですが、根絶には至っていないというのが現状です。
このため、来年から施行される「審理指南」によっても、直ちに先取り出願が根絶されるというものでもないでしょう。
やはり、自分のブランドは自己防衛をしていくというのがとても大切になります。
日本企業は自分が思うよりも中国からチェックされている
話は冒頭に戻りますが、今回小室圭さんの氏名に目をつけた「晋江市荣鑫妇幼用品有限公司」は、社名からすると福建省に所在する企業であると見受けられます。
北京や上海に限らず、中国全土の個人・企業が日本の動向に注目していると言っても過言ではなく、ひとたびインターネット上で注目を集めたもの・人の情報は、日本だけではなく中国にも渡っていると理解すべきでしょう。
日本で事業を行っているからと言って気にかけずにいると、いつの間にか商標権を取られているということにも繋がりかねません。
もちろん、中国で一切ビジネスを行わないというのであれば、(気味は悪いですが)放置していても実害はほとんどないと言えます。
しかし、もし「いつかは中国で」と思われているようであれば、日本で注目を集めるようになる前に、日本はもちろん中国でも商標権を確保しておくことが、極めて重要になります。
小室さんとしてはご自身の名前が勝手に出願されたとあっては気味が悪いと思われることでしょうから、心中お察し申し上げるとともに、実害が生じないことを願うばかりです。
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