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060:【模倣被害者向け】ニセモノが流通した時にどのように知財で立ち向かうか|対応編(商標法・意匠法・著作権法・不正競争防止法・プロバイダ責任制限法・関税法)

市場にニセモノが流通している場合、適切な対応を取らないと、マーケットを奪われることにもなりますし、製品によっては健康被害が発生することもあります。

近年では、巧妙な模倣品・偽物も増えていますので、本物だと誤解をして購入した消費者からクレームを受けたり、風評被害を受ける可能性もあります。

したがって、ニセモノが流通しているという情報をキャッチしたら、放置をするのではなく、直ちに調査を行い、対応策を検討する必要があります。

目次


  • ニセモノを流しているのが誰かを特定する
  • プロバイダ責任制限法に基づく開示請求
  • 国内事業者であれば警告書の送付を
  • 悪質な事案である場合には刑事告発も
  • 国外からの輸入品である場合には税関での水際差し止めも
  • 個人輸入に関する法改正について

ニセモノを流しているのが誰かを特定する


まずは、そのニセモノは一体誰が流しているのかを調べる必要があります。雑草のようにどこからともなく現れるものですが、雑草とは異なり自然に流れるものではなく、誰かがやっています。その誰かを特定した上で、責任追求を行うことになります。

確認の第一歩としては、オンラインでの調査があります。ECサイトで販売されている場合には、そのページ内に何らかの情報がある可能性があります。

複数のECサイトが確認できた場合には、それらから得られた情報の共通点・差異点を整理しておくようにしましょう。

そこで得られた情報をもとに、関連情報を調べていくことで、模倣品の流通形態が見えてくることもありますので、根気よく調べていくことが大切です。

ただし、いわゆる偽物業者ですから、インターネット上に掲載されている情報が本当に正しいとは限りません。得られた情報を鵜呑みにするのではなく、裏を取ることも必要です。

場合によっては、専門の調査会社に依頼をして、詳細な情報を取得する場合もあります。ケースバイケースの対応となりますので、専門家と相談しながら進めることが望ましいと言えます。

プロバイダ責任制限法に基づく開示請求


調査の結果、模倣品を流通させている主体の氏名や住所が特定できないという場合も当然あり得ます。

しかし、こうした場合でもインターネット上の履歴は残っていることがあるでしょうから、これをもとに、インターネットプロバイダに対して発信者情報開示請求をすることがあります。

発信者情報開示請求というのは、プロバイダ責任制限法第4条に基づき定められた手続で、権利侵害を受けた者が、侵害情報を流通させた者の氏名・住所等の開示を求めることができるというものです。

第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

プロバイダ責任制限法第4条

なお、このプロバイダ責任制限法というのは、正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」という長ったらしい名前の法律ですが、実務では「プロ責法」と更に短く呼ばれています。

各インターネットプロバイダは、発信者情報開示請求についての連絡先等を公開していますので、こちらに問い合わせ・請求を行います。

しかし、発信者への意見照会をした上でプロバイダが開示するか否かを判断することになるので、非開示とされる場合もあります。

非開示となって諦めることができない場合、裁判所に対して、プロバイダを相手取って発信者情報の開示を求める訴えを提起することになります。

国内事業者であれば警告書の送付を


相手方の特定ができたら、どのように模倣品の流通を止めるかを考えます。セオリーとしては、相手方に対して警告書を送付するというやり方がポピュラーかと思います。

警告書は、被害を受けている会社代表者の名前で送付することもあれば、弁理士や弁護士といった代理人名で送付することもあります。

いずれの場合でも、いつどのような内容の書類を送付したかの証拠を確保しておく意味で、内容証明郵便で送ることが大切です。

警告書には、侵害行為の即時中止の要求をはじめ、事案に応じて相手方に求めることを記載していくこととなります。

悪質な事案である場合には刑事告発も


警告書を送付して、素直に応じてもらえればまだいいものの、中には反応が一切ないという場合もあり得ます。

この場合、再度の警告書を送付することもありますが、事案の性質に照らして悪質だと判断される場合には、刑事告発をするというのも選択肢として入ってきます。

刑事告発をする場合、警察に動いてもらうことになるので、権利侵害であることを警察に納得してもらう必要があります。

こうした場面を想定しても、相手方に察知される前の事前の調査を綿密に行っておくことが大切になることがお分かり頂けるかと思います。

国外からの輸入品である場合には税関での水際差し止めも


では次に、模倣品が海外から日本国内に入っている場合には、どのような対応ができるでしょうか。

輸出入に関しては、関税法という法律があり、次のように規定されています。

第六十九条の十一 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品
十 不正競争防止法第二条第一項第一号から第三号まで、第十号、第十七号又は第十八号(定義)に掲げる行為(これらの号に掲げる不正競争の区分に応じて同法第十九条第一項第一号から第五号まで、第七号又は第九号(適用除外等)に定める行為を除く。)を組成する物品

関税法第69条の11第1項第9号・第10号

このように、知的財産権を侵害する貨物というのは、輸入が禁止されていますので、税関で差し止めることができます。

とはいえ、毎日大量の貨物が出入りする税関が、全ての貨物を開けて侵害品が入っていないかをいちいちチェックすることは現実的ではありません。

そこで、関税法では、模倣品が輸入される恐れがある場合に、具体的に特定をして輸入差し止めの申し立てを行うことができることとされています。

第六十九条の十三 特許権者、実用新案権者、意匠権者、商標権者、著作権者、著作隣接権者若しくは育成者権者又は不正競争差止請求権者は、自己の特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権若しくは育成者権又は営業上の利益を侵害すると認める貨物に関し、政令で定めるところにより、いずれかの税関長に対し、その侵害の事実を疎明するために必要な証拠を提出し、当該貨物がこの章に定めるところに従い輸入されようとする場合は当該貨物について当該税関長(以下この条及び次条において「申立先税関長」という。)又は他の税関長が認定手続を執るべきことを申し立てることができる。

関税法第69条の13第1項前段

税関への輸入差止の申し立ては、現実に模倣品が存在していることが必要ですので、将来模倣品が出てきたときに備える目的で行うことはできません。

しかし、現実に模倣品が流通し出した場合には、非常に効果的にニセモノを押さえることができますので、被害を受けている権利者にとっては、とても有効な手段であるといえます。

個人輸入に関する法改正について


輸入差止めの申し立ては非常に有効である反面、実は、個人使用目的で輸入する行為は、商標権や意匠権を侵害するものではないとして、通関してしまうことがあります。

しかし、このような個人使用目的での模倣品輸入を阻止するため、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害として位置付ける法改正が2021年5月14日に成立し、5月21日に公布されました。

商標法には、商標の使用にあたる行為として、「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」が挙げられていますが、この改正により次の規定が追加され、外国事業者が模倣品を日本国内に持ち込む行為が商標権侵害となることが明らかになります。

7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。

改正商標法第2条第7項

意匠法にも、同じ趣旨の改正が施されています。

改正法は、公布日から1年6月以内の政令で定める日に施行されるとされますので、2022年11月21日までに施行されることになります。

このように、ニセモノが見つかったときには、執りうる手段がいくつもあり、段取りよく進めていく必要があります。

ニセモノを見つけたからといって、いきなり訪問したり電話をかけてみたりする前に、専門家とよく相談をして、ステップを踏んで、適切に対応するようにしましょう。


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