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094:【個人・事業者向け】商標権は当事者同士で契約しただけでは移転されないことをご存知ですか?

商標権は財産の一種として、売買の対象となります。アパレルや食品などで、ブランドの売買が報道されることもあるので、どこかで目にしたことがある方もいらっしゃるかと思います。

しかし、財産の売買とはいうものの、通常の動産や不動産とは異なり、商標権をはじめとする産業財産権については、特別なルールが定められていますので、今日はこの点を解説したいと思います。

目次


  • 民法に定められている基本ルール
  • 商標法に定められている特別ルール
  • 単なる売買ではない時こそ要注意
  • 事業譲渡の場合は特許庁に登録しないと有効な譲渡にならない

民法に定められている基本ルール


民法には、売買は、当事者の意思の合致のみで効力を生ずると規定されています。

第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法555条

つまり、何か財産の売買をするときには、契約書も要らなければ、行政庁への手続きも必要ないということです。

コンビニやスーパーで買い物をするときに、いちいち契約書を作成したり市役所に申請したりすることがないことからも、これはイメージがつきやすいかと思います。

これは、飲食料品や文房具などの、いわゆる動産のみならず、不動産にも当てはまるものです。

不動産は、高額な商品であることから、トラブル防止等のために契約書を作成したり、不動産登記をおこなったりすることは一般的かと思いますが、売買契約の成立は、意思の合致のみで足ります。

商標法に定められている特別ルール


民法は、基本法ですから、他の法律に特別なルールが規定されていなければ、民法の規定が適用されます。

しかし、商標法をはじめとする産業財産権法においては、特別なルールが規定されています。

そのルールというのは、「特許庁に登録しなければ効力を生じない」というものです。

具体的には、特許法98条にそのことが規定されていて、商標法35条でこの特許法の規定を準用している格好になっています。

第九十八条 次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。
一 特許権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、信託による変更、放棄による消滅又は処分の制限

特許法98条1項1号

第三十五条 特許法第七十三条(共有)、第七十六条(相続人がない場合の特許権の消滅)、第九十七条第一項(放棄)並びに第九十八条第一項第一号及び第二項(登録の効果)の規定は、商標権に準用する。この場合において、同法第九十八条第一項第一号中「移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)」とあるのは、「分割、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)」と読み替えるものとする。

商標法35条

これらの条文があることにより、商標権を移転(売買より広い概念)するときには、契約を締結しただけでは足りず、特許庁に登録をして初めて効力が発生する(有効になる)ことがお分かりいただけるかと思います。

単なる売買はもちろん、そうではない時こそ要注意


通常の商標権の売買であれば、どちらかの当事者側に弁理士が付いていさえすれば、特許庁に手続きをする必要があることを見落とすことは稀だと言えます。

しかし、もし両当事者がこうしたことに明るくない方同士で、どちらにも弁理士が付いていない場合、契約は締結したものの、特許庁に手続きを取らなかったが故に、商標権は依然として譲渡人(元々の商標権者)のもとにあるままということも、考えられなくはありません。

また、通常の売買ではなく、事業譲渡や会社分割の場合では、それぞれ取り扱いが異なりますので、一層の注意が求められます。

事業譲渡の場合は特許庁に登録しないと有効な譲渡にならない


事業そのものを商品として他の会社に売却するということは、ビジネスの現場ではよく起こることです。

そして、その売却方法としては、事業譲渡というやり方と、会社分割というやり方が挙げられます。

事業譲渡は、法的な取り扱いとして、事業そのものの売買ということになりますので、業界用語で「特定承継」ということになります。

一方の会社分割は、法的な取り扱いとしては、事業に関する権利義務の承継ということになりますので、業界用語で「一般承継」ということになります。

ここで思い出していただきたいのが、上で触れた商標法35条の規定です。そこでは「相続その他の一般承継によるものを除く」という一言が触れられていたことを覚えていらっしゃいますでしょうか。

条文なので多少読みづらいですから、噛み砕いてご説明しますと、一般承継の場合には、登録をしなくても商標権の移転の効力が発生するということになります。

ですから、会社分割の場合は一般承継なので、特許庁での登録がなくても商標権の移転は有効になります。

一方、この裏返しで、事業譲渡の場合は特定承継なので、特許庁での登録がないと商標権の移転が有効にならないということになります。

つまり、事業譲渡の場合、事業ごと買い取ったから安心していたところ、実は商標権が移転していなかったという場合が起こりうるということです。

契約は締結した、代金も支払った、しかし権利は移転していなかったとなれば、後々大きな問題にもなりかねません。

特許庁に登録をする前に事業譲渡した側の会社が倒産していたりすると、商標権の回収が困難になる恐れもありますので、それぞれで法的取り扱いがどう異なるのか、当事者の知識として知っておいて頂けたらと思います。


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