「知的財産は難しい」とよく言われます。このblogは、知的財産に関する疑問・悩みに答えていく「解説」記事です。「知的財産が分かった」を目指して、すっと理「解」していただけるように噛み砕いて「説」明していきます。
さて、前回の記事で、国際出願にまつわるよくある誤解4選について紹介しました。本記事はその4選についての解説編です。
昨日の記事をご覧になっていない方は、まずは【昨日の記事】からどうぞ。
なお、以下の4項目は全て「誤解」ですから、答えは全てNoですので、ご注意ください。
⑴ 国際商標を取得すると全世界の国で商標権が取得できる?
国際商標は、とても便利な制度ですが、残念ながら全世界の国々をカバーするには至っていません。
国際出願をすることができるのは、マドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル。通称「マドプロ」)に加盟している国や地域だけです。
国や「地域」と書いているのは、EUなど、国単位ではなく地域単位で出願をすることができる場合があるためです。
2021年9月現在、マドプロには124の国をカバーする108ヶ国が加盟(※)していますが、日本の近所だと、台湾や香港、バングラディシュ、ミャンマーが未加盟です。
国際出願をしようとする場合には、展開したい国がマドプロに加盟しているかの確認が必要です。
また、国際出願をする際には、加盟国のうちどの国への出願を希望するかを選択することになります。
もちろん、全ての国を選択することもできますが、その分料金も高額になりますので、注意が必要です。
※2021年12月28日以降はアラブ首長国連邦の加盟が発効するため125の国をカバーする109ヶ国となります。
⑵ 国際商標として登録された時点で各国の審査も終わっている(または各国の審査が不要になる)?
国際商標を取得するためには、日本企業であれば日本の特許庁に願書を提出して、特許庁と世界知的所有権機関(WIPO)の審査を経る必要があります。
これらの審査が終わると、国際登録簿に登録されることになります。「国際登録」がされた段階でようやく、「国際商標」ということになります。
しかし、注意が必要なのが、特許庁と世界知的所有権機関(WIPO)の審査では、方式的な審査しか行っていません。
実際は、国際登録がされた後、選択した国・地域での審査に移行します。
そして、それぞれの国・地域で商標の保護を受けるためには、それぞれの国で登録要件を満たして、審査を通過する必要があります。
このため、国際登録された時点は、ゴールではなくようやくスタート地点に立てたという状態と言えるでしょう。
⑶ 国際展開する時には国際商標を調べれば足りる?
国際商標は世界知的所有権機関(WIPO)に設置される国際登録簿に登録されますが、そこに載っているものは国際商標だけです。
そして、それらの国際商標は、国際出願等の段階でそれぞれ、どの国・地域での保護を求めるかの選択をしています。
このため、国際登録簿に同じような商標があったとしても、選択する国・地域が異なれば無視して問題ありません。
国・地域が被っていても、商品やサービスが異なれば、やはり同様に無視して問題ありません。
一方で、保護を求める国・地域において、国際出願ではなく直接出願がされている商標が存在していた場合、それは国際登録簿には反映されません。
このため、ある国・地域で商標の保護を求める場合に、他人の商標が既に存在していないかを確認しようとする場合、国際商標を調べるだけでは足りないどころか、見るべきところが全然違うと言えるでしょう。
調査を行う場合には、それぞれの国・地域で行うことが必要です。
⑷ 国際商標を取得すれば著作権などの他の知的財産権の問題もクリアできる?
国際商標は、その名の通り「商標」に関する制度です。
著作権や意匠権、特許権など、他の知的財産権のことは全くと言っていいほど見られません。
国際出願という手段を通じて商標についての保護が得られたとしても、他の知的財産権を侵害してしまうような使い方は認められません。
まとめ
繰り返しますが、国際出願を通じて国際商標を取得することは、海外に進出した多くの方におすすめできるものです。
しかし、過度な期待は禁物で、それなりに制限や限界というものがあるのも事実です。
実際に手続きを進める前に、直接出願と国際出願とを比較してどちらがベストあるいはベターかを検討することが大切です。
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